サステナブルな
暮らし
Tips in 徳島

collaborate〔 協働する 〕

神の山を
つなぐ人びと

消滅可能性都市のひとつに数えられながらも“創造的過疎”と呼ばれる小さな町がある。
徳島県神山町。そこで暮らし、働く人びとの姿に、未来へのヒントが見えた。

神山の人々1

NPO法人グリーンバレー

神山町国際交流協会(1992年〜)を前身とし2004年に設立。アートによるまちづくり推進、サテライトオフィスの誘致、就業・起業支援、移住・定住サポートなど、神山を元気にするための各事業を展開する。

神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス(KVSOC) / 神山メイカースペース(KMS)

名西郡神山町下分字地野49-1

050-2024-4385 (KVSOC)

左/神山メイカースぺース(KMS)を管理するアーティストのあべさやかさん。神山ビールのオーナーでもある。右/県立城西高校神山校の「森林女子部」はKMSで活動。町内産のスギ材から商品の企画・制作に取り組む。

強度のある働き方が似合う町

人口およそ5,000人の神山は、総務省が指定する過疎地域だが、近年は転入者数が転出者数を上回っている。転入者はデザイナーや料理人などのクリエイティブな職種の若い世代が多い。加えて2010年以降、神山には16もの企業のサテライトオフィスができた。なぜここまで多様な人が神山に集まるのか。率直な問いをぶつけてみると、会う人会う人、グリーンバレーの名前をあげる。

アーティストが滞在しながら作品制作できるプログラム、神山アーティスト・イン・レジデンスを始めたり、移住促進やサテライトオフィスの誘致、半年間のお試し移住で地域活動を学べる神山塾の開催など、グリーンバレーはその前身から30年にわたり地道な活動を行ってきた。

元縫製工場を利用したコワーキングスぺース「神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス」。現在は12社が入居するほか、誰でも半日500円〜(自由席)で利用できる。

神山の人々2

フードハブ・プロジェクト

地域でつくり地域で食べる“地産地食”をモットーに、地域の関係性を築き、神山の農業と食文化を次世代につなぐ。自社農園の野菜・果物や、地域の食材を使い、〈かま屋〉〈かまパン&ストア〉などで提供する。

名西郡神山町神領字北190-1

088-676-1011

フードハブ・プロジェクトのメンバー。左から、〈かまパン〉スタッフの守田さん、パン職人の鈴木さんとパン製造責任者の笹川さん、農業長の白桃さん、〈かま屋〉料理長の清水さん、同店長の石田さん、支配人の真鍋さん。

左/週替わりの〈かま屋〉のランチ。地域で不要になった食器も活躍。右/料理に使われた食材のうち町内産の品目数の割合を「産食率」として毎月算出し公開する。

地域の宝を伝えつづける

ここフードハブ・プロジェクト(以下フードハブ)は地産地食をモットーに、できるだけ町内産の、それも有機や無農薬で育てられた食材を使った料理を提供する。自社でも農業チームをもち、野菜は耕作放棄等を借りて栽培している。

毎月発行の「かま屋通信」をはじめ、テーブルに置かれた産食率のレポート、地域の不要品を譲り受けた食器類、町内産のスギ材を使った内装……。店の場所に神山の”地面”を身近に感じる仕掛けがちりばめられている。
今後はフードハブの食育部門がNPOとして独立する予定だ。

左/昭和53年発刊の『神山の味』。フードハブでは復刻版をつくり販売している。右/同書にも掲載されたおいのこ寿し(写真奥)などの郷土料理を、料理担当の細井恵子さんが再現してくれた。名産であるすだちは半分に切り、どんな料理にも豪快にかける。

神山の人々3

廣瀬圭治(神山しずくプロジェクト)

2012年に神山に移住し、サテライトオフィスを開設したデザイナー。建材以外のあらたなスギの価値をデザインし伐採を進めることで、地域の山と水源を守る「神山しずくプロジェクト」に取り組んでいる。

SHIZQ STORE

名西郡神山町神領字西上角194

050-2024-2090

始業前の早朝に渓流釣りを楽しむ廣瀬さん。

左/スギ材の特徴である赤と白の木肌を生かしたツートンカラーの器は、非常に軽く口当たりやわらか。スギ材から抽出したエッセンシャルオイルやチップを使った除湿芳香剤なども人気がある。右/2021年4月にオープンした、町産材を使った木製品やエッセンシャルオイルなどを展示販売する〈SHIZQ STORE〉。

フードハブが食と農なら、神山しずくプロジェクト(以下SHIZQ)は木と水だ。町内産のスギ材をデザインの力で価値あるものに変え、余すところなく使う。それによりスギの伐採が進み、豊かな山と水源が再生される循環を作り出す。

廣瀬圭治さんは、神山の豊かな自然に惹かれて9年前に移住。しかし「神山の山々は、ほとんどがスギの人工林です。安い外材が入ってきてからは、間伐・伐採されず、山林の環境が変わり硬くなった土が保水力を失い、山から川に流れ込む水量が年々減っています」と、豊かに思われた自然が実は“緑の砂漠”だったことに気づいた衝撃を語る。

実際、鮎喰川の水量は30年前の3割にまで減ったというから驚くが、それは神山に限ったことではない。近年、各地で多発している土砂災害も、根っこの浅いスギが引き金になっている。日本の中山間地域の問題解決の一手となるように、SHIZQを100年つづくモデルにするのが廣瀬さんの目指すところだ。

神山の人々4

辰濱健一(Sansan神山ラボ)

2010年に県のサテライトオフィス第1号として開設されたIT企業〈Sansan〉のサテライトオフィス。常駐するエンジニアの辰濱さんが気に入っているのは「通勤の負担がない」のと「仕事に集中できる環境」。

Sansan神山ラボ

名西郡神山町神領字東青井夫36

左/築100年近い母屋(左)と牛小屋(右)を改装したオフィス。希望すれば社員は誰でも使用できる。右/室内は床暖房、空調設備を完備。新入社員の合宿に備えて、さまざまなワークスぺースがある。

神山の人々5

瀧本昌平(染昌)

染め師。京都で3年間修業したあと、2010年に神山に移住。〈神山塾〉に参加したのち、自宅のそばに工房&ギャラリースぺースをもつ。藍や柿渋などを使った天然染料で染めた商品を、展示会等で販売する。

染昌

名西郡神山町下分

iriechant@gmail.com

※工房&ギャラリーは予約制

4年前に山中の空き家に出合い、DIYで母屋と豚小屋2つを改修した〈染昌〉の瀧本さん。それぞれ工房、ギャラリーとして使っている。

左/染めに使う天然素材。右/長男の一楽くん(6歳)が渡邉啓高さんのダンス教室に通っているため、渡邉さんが家にやってくると自宅はたちまちダンススタジオに。

神山の人々6

金澤光記(リヒトリヒト)

名古屋の義肢装具メーカーで、障害のある方の靴づくりを行ったのち、徳島市内に移住。「神山塾」を経て、2015年1月に工房兼ショップをオープン。一人ひとりの足の個性と向き合ってつくる靴にはファンも多く、遠方から訪れる人も。
※現在は予約制

リヒトリヒト

名西郡神山町神領字北213-1

088-636-7920

片づいていて気持ちのよい、〈リヒトリヒト〉の工房。

循環する土地の上で

神山にたくさんの人が惹かれ、根を下ろしていくのは、人やプロジェクトの力だけじゃない。この地には、他を想う心や土地の力がもともとあって、それらが掛け合わさることで、いまの町になっている。

「FRaU S-TRIP 2021年12月号 サステナブルを学ぶ『徳島』への旅」講談社刊より

—サステナブルな暮らし Tips in 徳島—