〔 協働する 〕
神の山を
つなぐ人びと
消滅可能性都市のひとつに数えられながらも“創造的過疎”と呼ばれる小さな町がある。
徳島県神山町。そこで暮らし、働く人びとの姿に、未来へのヒントが見えた。
NPO法人グリーンバレーGreen Valley
神山町国際交流協会(1992年〜)を前身とし2004年に設立。アートによるまちづくり推進、サテライトオフィスの誘致、就業・起業支援、移住・定住サポートなど、神山を元気にするための各事業を展開する。
強度のある働き方が似合う町
人口およそ5,000人の神山は、総務省が指定する過疎地域だが、近年は転入者数が転出者数を上回っている。転入者はデザイナーや料理人などのクリエイティブな職種の若い世代が多い。加えて2010年以降、神山には16もの企業のサテライトオフィスができた。なぜここまで多様な人が神山に集まるのか。率直な問いをぶつけてみると、会う人会う人、グリーンバレーの名前をあげる。
アーティストが滞在しながら作品制作できるプログラム、神山アーティスト・イン・レジデンスを始めたり、移住促進やサテライトオフィスの誘致、半年間のお試し移住で地域活動を学べる神山塾の開催など、グリーンバレーはその前身から30年にわたり地道な活動を行ってきた。
フードハブ・プロジェクトFood Hub Project
地域でつくり地域で食べる“地産地食”をモットーに、地域の関係性を築き、神山の農業と食文化を次世代につなぐ。自社農園の野菜・果物や、地域の食材を使い、〈かま屋〉〈かまパン&ストア〉などで提供する。
名西郡神山町神領字北190-1
地域の宝を伝えつづける
ここフードハブ・プロジェクト(以下フードハブ)は地産地食をモットーに、できるだけ町内産の、それも有機や無農薬で育てられた食材を使った料理を提供する。自社でも農業チームをもち、野菜は耕作放棄等を借りて栽培している。
毎月発行の「かま屋通信」をはじめ、テーブルに置かれた産食率のレポート、地域の不要品を譲り受けた食器類、町内産のスギ材を使った内装……。店の場所に神山の”地面”を身近に感じる仕掛けがちりばめられている。
今後はフードハブの食育部門がNPOとして独立する予定だ。
廣瀬圭治(神山しずくプロジェクト)Kiyoharu Hirose
2012年に神山に移住し、サテライトオフィスを開設したデザイナー。建材以外のあらたなスギの価値をデザインし伐採を進めることで、地域の山と水源を守る「神山しずくプロジェクト」に取り組んでいる。
フードハブが食と農なら、神山しずくプロジェクト(以下SHIZQ)は木と水だ。町内産のスギ材をデザインの力で価値あるものに変え、余すところなく使う。それによりスギの伐採が進み、豊かな山と水源が再生される循環を作り出す。
廣瀬圭治さんは、神山の豊かな自然に惹かれて9年前に移住。しかし「神山の山々は、ほとんどがスギの人工林です。安い外材が入ってきてからは、間伐・伐採されず、山林の環境が変わり硬くなった土が保水力を失い、山から川に流れ込む水量が年々減っています」と、豊かに思われた自然が実は“緑の砂漠”だったことに気づいた衝撃を語る。
実際、鮎喰川の水量は30年前の3割にまで減ったというから驚くが、それは神山に限ったことではない。近年、各地で多発している土砂災害も、根っこの浅いスギが引き金になっている。日本の中山間地域の問題解決の一手となるように、SHIZQを100年つづくモデルにするのが廣瀬さんの目指すところだ。
辰濱健一(Sansan神山ラボ)Kenichi Tatsuhama
2010年に県のサテライトオフィス第1号として開設されたIT企業〈Sansan〉のサテライトオフィス。常駐するエンジニアの辰濱さんが気に入っているのは「通勤の負担がない」のと「仕事に集中できる環境」。
Sansan神山ラボ
名西郡神山町神領字東青井夫36
瀧本昌平(染昌)Shohei Takimoto
染め師。京都で3年間修業したあと、2010年に神山に移住。〈神山塾〉に参加したのち、自宅のそばに工房&ギャラリースぺースをもつ。藍や柿渋などを使った天然染料で染めた商品を、展示会等で販売する。
金澤光記(リヒトリヒト)Koki Kanazawa
名古屋の義肢装具メーカーで、障害のある方の靴づくりを行ったのち、徳島市内に移住。「神山塾」を経て、2015年1月に工房兼ショップをオープン。一人ひとりの足の個性と向き合ってつくる靴にはファンも多く、遠方から訪れる人も。
※現在は予約制
循環する土地の上で
神山にたくさんの人が惹かれ、根を下ろしていくのは、人やプロジェクトの力だけじゃない。この地には、他を想う心や土地の力がもともとあって、それらが掛け合わさることで、いまの町になっている。
「FRaU S-TRIP 2021年12月号 サステナブルを学ぶ『徳島』への旅」講談社刊より