〔 蘇生する 〕
歴史再生の宿で
癒やされる
サステナブルな旅をするなら、
宿にもこだわりたい。
古い建物を改修した宿や、自然と一体になれる施設で、
伝統と自然を全身で感じよう。
Miyoshi City篪庵〈ちいおり〉
300年の歴史を経た茅葺き屋根の宿
三好市東祖谷釣井209
Miyoshi City桃源郷 祖谷の山里
雄大な景色を望む落合集落の古民家
三好市東祖谷落合403 ※受付事務所
アメリカ人の東洋文化研究家、アレックス・カー氏が初めて祖谷を訪れたのは1971年の夏。「祖谷では、俗世からはなれて雲の上の世界に入ったような気持ちになります」(カー氏)との言葉のとおり、神秘的で美しい自然と伝統が残る環境に惚れ込み、2年後に一軒家を購入した。「この美しい建物を後世に残していきたい」というカー氏の思いから、3度の修復を経て、宿泊施設〈篪庵〉となった。300年近く囲炉裏の煙に燻されて黒光りする太い桁と梁。その趣は残しつつ、床暖房や、最新の水回り、檜風呂などを設置し、宿泊施設としての快適さにもこだわった。〈桃源郷祖谷の山里〉も同氏のプロデュースによるもの。落合集落の山の斜面に点在する、8棟の茅葺き古民家に宿泊できる。リノベーションされ、現代的な設備を備えた部屋からは、季節によっては幻想的な雲海も望める。近隣の飲食店から運ばれる郷土料理をケータリングできるサービスもあるので、ぜひ活用したい。
Miyoshi City古民家やど 紺屋
築120年の農家民宿で昔ながらの生活体験
三好市東祖谷久保311
Area Guide平家落人伝説
のある祖谷へ
源平合戦に敗れた平家の落人が隠れ住んだとも伝えられる祖谷。
多くの人びとを魅了してきた日本の原風景がここにある。
1,000m級の山々の間を流れる吉野川支流の祖谷川に、雨の多い気候のため生い茂る原生林。四国のほぼ中央に位置する三好市の祖谷は、手つかずの自然が織りなす絶景と出合えるエリア。岐阜県飛驒の白川郷、宮崎県日向の椎葉村(しいばそん)と並んで、日本三大秘境のひとつにも数えられている。徳島阿波おどり空港から車でおよそ2時間と躊躇してしまいそうな距離だが、足を運ぶ価値は十分にある。重要有形民俗文化財の「祖谷のかずら橋」や、断崖絶壁に建つ「小便小僧の像」、急斜面に茅葺き屋根の民家や田畑が点在する奥祖谷の「落合集落」など、ユニークなスポットが点在しているので、くまなく巡って満喫してほしい。せっかくなら宿泊して、ゆっくり非日常感を味わおう。
祖谷旅でしたい3つのこと
秘湯に浸かって
至福のひととき
逃れてきた平氏が入浴したとの伝説が残る祖谷温泉。日本が誇る秘湯のひとつとして、温泉ファンの間でよく知られている。皮膚病や糖尿病に効果があるといわれ、肌をスベスベにしてくれる。点在する宿のほとんどで日帰り入浴を楽しむことができ、とくにケーブルカーを利用して行く温泉宿が人気。静寂の中お湯に浸かってリラックスしてみては。
大歩危小歩危で
アクティビティ
四国山地の結晶片岩などが吉野川に削られ、2億年かけてできたという渓谷・大歩危小歩危。彫刻のような巨岩や奇岩を船から堪能する「大歩危峡舟くだり」や、スリル満点のラフティングやキャニオニング、SUPなど、さまざまなアクティビティがあり、全身で大自然を感じられる。桜、新緑、紅葉、雪景色と、四季折々の景色も見どころ。
太麺の素朴な
粗谷そばを食す
昼と夜の寒暖差が激しい祖谷地方はソバの栽培に適した地。祖谷そばは、平安時代に合戦に敗れて逃げてきた平家の一族が常食にしていたともいわれる歴史ある郷土料理だ。麺は小麦などのつなぎを使用せずにつくるため、太く短いのが特徴。祝いごとの席でもよく振る舞われるが、切れやすい麺は「縁が切れる」に通じると、婚礼では御法度。
Mima CityEarthship MIMA
自然エネルギーを活用地球に優しい宿泊施設
美馬市美馬町栗林1
1970年代からアメリカ人建築家マイケル・レイノルズ氏が建てつづけている、公共のインフラを必要としないオフグリッドハウス、Earthship。〈Earthship MIMA〉は、日本における第1号だ。建材には古タイヤや空きビンなどを活用し、電気は太陽光発電、水は屋根に溜まった雨水をろ過して使用するなど、たくさんのアイデアが詰まっている。機能性だけではなく、快適性もこの施設の魅力。モンゴルのゲルのような寝室では、朝になると天井から光が差しこみ、自然のサイクルに合わせて目が覚めるようになっている。21°C前後に保たれた快適な部屋や、グリーンに囲まれたサンルームも開放感がある。遊び心のある建物に癒やされつつ、ふだんの暮らしとの差にあらためて思いを巡らせてはいかがだろう。
Mima CityPAYSAGE MORIGUCHI
アートに出合える重厚な伝統建築
三好市池田町マチ2467-1
国の重要伝統的建造物群保存地区「うだつの町並み」(下記コラム)の中にある、築140年の民家を利用したラグジュアリーなプチホテル。藍染めののれんがかかった重厚な建物の中は、木のぬくもりを残しつつモダンにリノベーションされ、美しいインテリアが設えられた和モダンな空間が広がる。客室は5室のみ。各部屋には芸術ツウのオーナーが厳選したさまざまな作家の作品や書籍などが置かれていて、アートに出合えるのも楽しい。
Area Guide江戸時代そのままの
「うだつの町並み」
江戸時代に藍の豪商らが建てた商家が軒を連ねる、美馬市脇町の風情ある町並み。
タイムスリップした気分で散策してみよう。
江戸時代中期から昭和初期、藍の集散地として栄えた脇町。その一角に、当時の豪商屋敷が立ち並ぶ「うだつの町並み」がある。「うだつ」とは、隣家との間に防火のために取りつける小さな壁のことで、裕福でなければ設置することができなかった。これが「うだつが上がらない(出世ができない)」という言葉の語源になっているといわれる。見どころは、白と鈍色(濃い灰色)のコントラストが美しい歴史的な建物群。出格子、虫籠窓、鬼瓦なども家ごとにデザインが異なり、見ていて飽きない。現在は藍染め文化に触れられる体験施設や、映画のロケ地にもなった劇場、カフェや雑貨店などさまざまな施設もでき、のんびり町歩きするのにぴったりだ。
「FRaU S-TRIP 2021年12月号 サステナブルを学ぶ『徳島』への旅」講談社刊より